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ほしあかり
星あかり
泉 鏡花
Read 星あかり (ほしあかり) by 泉 鏡花 (いずみきょうか) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 4,178 characters · 9 screens
何にもならないで、ばたりと力なく墓石から下りて、腕を拱き、差俯向いて、じっとして立って居ると、しっきりなしに蚊が集る。毒虫が苦しいから、もっと樹立の少い、広々とした、うるさくない処をと、寺の境内に気がついたから、歩き出して、卵塔場の開戸から出て、本堂の前に行った。
然まで大きくもない寺で、和尚と婆さんと二人で住む。門まで僅か三四間、左手は祠の前を一坪ばかり花壇にして、松葉牡丹、鬼百合、夏菊など雑植の繁った中に、向日葵の花は高く蓮の葉の如く押被さって、何時の間にか星は隠れた。鼠色の空はどんよりとして、流るる雲も何にもない。なかなか気が晴々しないから、一層海端へ行って見ようと思って、さて、ぶらぶら。
門の左側に、井戸が一個。飲水ではないので、極めて塩ッ辛いが、底は浅い、屈んでざぶざぶ、さるぼうで汲み得らるる。石畳で穿下した合目には、このあたりに産する何とかいう蟹、甲良が黄色で、足の赤い、小さなのが数限なく群って動いて居る。毎朝この水で顔を洗う、一杯頭から浴びようとしたけれども、あんな蟹は、夜中に何をするか分らぬと思ってやめた。
門を出ると、右左、二畝ばかり慰みに植えた青田があって、向う正面の畦中に、琴弾松というのがある。