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はんしちとりものちょう

時代推理小説 半七捕物帳(二)

岡本 綺堂

Read 時代推理小説 半七捕物帳(二) (はんしちとりものちょう) by 岡本 綺堂 (おかもときどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 215,865 characters · 432 screens

Aozora Bunko

扉の錠をはずして、入口へ食い物の膳を供えたら、あとを振り返らずにすぐに出て来いと云われているもんですから、はじめのうちは正直にその通りにしていました。三度三度その通りで、半刻も経って行ってみると、膳の物は綺麗にたべ尽してあるそうでございます。まあ、それで当分は何事もなかったのでございますが、四月の二十日のことだと申します。午の膳を運ぶのが例より少し遅くなりまして、急いで土蔵の扉をあけますと、その錠の音が奥へ響いたのでございましょう。土蔵の二階の梯子がみしりみしりと響いて、なにか降りて来るような様子でございます」

「なるほど」と、半七は煙草をすいながら、耳を傾けていた。

「それがきっと大きい蛇だろうとお通は思いまして、膳をそこに置いたままで慌てて引っ返そうとしましたが、怖いもの見たさに、扉のかげに隠れてそっと覗いていますと、梯子を降りて来たのは……。その日はいい天気で、しかも真っ昼間でございますから、土蔵のなかは薄明るく見えましたそうで……。今、みしりみしりと降りて来たのは、一人の若い女のようで、黙って膳に手をかけたかと思うと、こっちで覗いているのを早くも覚ったとみえまして、細い声でもしと呼んだそうでございます。