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はんしちとりものちょう
時代推理小説 半七捕物帳(四)
岡本 綺堂
Read 時代推理小説 半七捕物帳(四) (はんしちとりものちょう) by 岡本 綺堂 (おかもときどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 217,272 characters · 434 screens
狭い店さきへ出て、再び何の用かと訊くと、外では女の細い声で、御亭主にちょっとお目にかかりたいという。内の人は唯今留守ですと答えると、それではおかみさんに逢わせてくれというので、お徳はともかくも表の戸をあけると、ひとりの痩形の女が夜目にも白い顔をそむけて、物思わしげに悄然とたたずんでいるのが薄暗い行灯の火にぼんやりと照らし出された。
「なにか御用でございますか」
「はい。あの、失礼でございますが、お店へあがりましてもよろしゅうございましょうか」と、女は忍びやかに云った。
見ず識らずの女が夜ちゅうに人の店へあがり込もうというのは、なんだか胡散らしいとも思ったが、お徳はもう三十を越している。相手は弱々しい女ひとり、別に恐れるほどのこともあるまいと多寡をくくって、そのまま店へあがらせると、女はうしろを見かえりながらそっと表の戸を閉め切ってはいった。そうして、なにを云い出すかと、お徳は相手の俯向き勝ちの顔をのぞくように見ていると、女はやがて低い声で云い出した。
「夜ふけに伺いまして、だしぬけにこんなことを申し上げるのも異なものでございますが、わたくしはこの御近所に居りますもので、昨晩不思議な夢を見ましたのでございます」