Japanese reading practice

Read classic Japanese books with furigana

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くらがりのおとまつ

暗がりの乙松

山本 周五郎

Read 暗がりの乙松 (くらがりのおとまつ) by 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 11,992 characters · 25 screens

Aozora Bunko

梅田屋は向うを見た、「どうやら親たちが帰って来たようだぜ」

街道口のほうから、五十あまりになる百姓夫婦が帰って来た。ちょうどその時、娘は灯を入れた座敷の障子を明けひろげていたところで、

「お父つぁんおっ母さんお帰り」

と声をかけた。

「おお今帰ったぞ」

主人の嘉兵衛は縁先へ回って、「おっ母あが途中で足を痛めたでの、もっと早く帰るつもりがすっかり遅くなっただ」

「おっ母さん塩梅はどうだね」

「ありがとうよ、ちっとべえ辛かったっけ、今あもう何ともねえだよ、どっこいしょ」

縁先へ腰かける母親を、娘は座敷へ援けあげ、父親へもともに座蒲団を取って出した。嘉兵衛はどっかり坐りながら、

「留守に誰も来なかったか」

「二本松の茂吉さが来ただよ、今日おっ母さんが湯治から帰ると聞いたで、見舞に鶏卵を持って来てくれただ」

「そうか、そりゃあ済まなかったの」

嘉兵衛の妻お秀は、蒼白めた顔でしげしげと家の内を見回していたが、やがて灯火から顔を外向けてそっと袖口を眼へ押当てた。

「どうしただお秀」

嘉兵衛がみつけて、「おめえ泣いているだな――」

「お父つぁん、おらあ済まねえだよ」

「何を云うだ、お秀」