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くらがりのおとまつ
暗がりの乙松
山本 周五郎
Read 暗がりの乙松 (くらがりのおとまつ) by 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 11,992 characters · 25 screens
盗むこっちゃあどうせ酒か博奕に遣っちまう金が、あそこじゃ親娘三人を生かすか殺すかの楔になっている。こんな、こんな酷え業たあ知らなかった」
三次の眼からぽろぽろと涙が落ちた。しかし乙松の梅田屋は眉も動かさない。
「どうかその金を返しておくんねえ」
三次は続けた、「親分も江戸じゃ鼠小僧の二代目とまで云われなすった義賊、まさかこんな金ゃあお取んなさるめえ、どうかその金を」
「馬鹿野郎、つまらねえことを云うな」
梅田屋はせせら笑った、「おいら義賊だ? ふっふふふ、世迷言もいい加減にしろ、世中にゃ泥棒はいるが、『義』の付く泥棒はいねえ、人様の物を盗んで鼻糞ほどの施しをしたって何が義賊だ、泥棒をするやつぁしたくってするんだ、世間の毒虫、人界の芥屑、外道、畜生と相場あ定ってらあ。この乙松あな、吝ったれた施しをして自分の悪事の尻拭いをするような、けちな野郎たあ種が違うんだ」
「それじゃ、いまの金は、返してはおくんなさらねえのか?」
「当りめえよ、盗人が一度懐中へ入れた金だ、手前っちが逆立できりきり舞をしても返すこっちゃあねえ、面あ洗って出直してこい」
野火の三次がぎゅっと唇を噛む。