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くらがりのおとまつ
暗がりの乙松
山本 周五郎
Read 暗がりの乙松 (くらがりのおとまつ) by 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 11,992 characters · 25 screens
「どうしても、いけませんか」
「諄え!」
「――野郎!」
喚いたと思うと、掴まれた腕をぱっと振放す、不意をくらって乙松の体が傾く、隙、三次は右手にぎらりと短刀を抜いた。
「抜きゃあがったな」
「腕ずくでも!」
だ! と跳びかかって来る、相手はとっさに体を捻って、三次の利腕を逆に、ぐいと引っ手繰って足を搦む。
「くそっ! むっ」
捨てばちの強引、三次は腰を落して、相手の体勢を利用、猛然と突っかけた。梅田屋の足が杉の根にかかる、斜面で足場が悪いから、仰さまにだあ! と倒れた。折重った二人、三次は左で相手の喉を絞めながら、短刀を逆手に胸を狙って、た!
「ま、待て」
突下す肘を必死に支えた梅田屋、「待て、三次――金ゃあ返してやる」
「何だと?」
「金ゃあ返してやるよ、それ」
梅田屋は懐中から胴巻を掴み出すと、ぽんと向うへ抛り投げた。三次は油断なくじりじりと腕を引いたが、相手に敵意のないのを見届けると、ひらりと跳退いた。
「そう、出てくださりゃ、お手向いはせずに済んだのだ、それじゃあいただきますぜ」
喘ぎながら胴巻を拾う、「これで人殺し兇状だきゃあ助かった、御免ねえ」
云い捨てざま、三次は杉林をとび出す、百合畑を駈けぬけて、いきなり母屋の縁先へ現われた。