Read classic Japanese books with furigana
ja-reading.com
Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.
つきのまつやま
月の松山
山本 周五郎
Read 月の松山 (つきのまつやま) by 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 20,451 characters · 41 screens
八
弥六は黙ってついて来た。孝也はふところから封書を出して、弥六に渡した。
「明日の朝七時になったら、これを西秋に渡してくれ」と孝也は云った、「おれは用事ができて早くでかける、七時まえではいけない、七時になったら渡すんだ、わかったか」
「わかりました」と弥六が答えた。
「ほかの者には黙っていてくれ」と孝也が云った、「いいか、七時だぞ」
「七時になったら渡します」
「頼む、起こして済まなかった」
弥六は長屋へ戻り、孝也は住居へ帰った。部屋の中をすっかり片づけ、不要な物は焼いた。机を直して信高に宛てた封書を置き、それから着たままで横になった。気持はおちついていた。二月のあの日、道円に病気の宣告をされて以来、そんなに気分のおちついたことはなかった。薬の切れる時刻を過ぎていたが、ふしぎに痛みの起こるようすもなく、彼は少しのあいだ眠りさえした。
午前三時まえ、孝也は水を浴びて、身支度をした。薬は二服を一度にのみ、香をいて、やや暫く静かに坐った。
「これでいいな」と孝也はやがて呟いた、「これでよし」
彼は立って行燈を消した。
八
地上には濃い靄が揺曳し、空には白く月がかかっていた。