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あさがおぞうし
朝顔草紙
山本 周五郎
Read 朝顔草紙 (あさがおぞうし) by 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 14,019 characters · 29 screens
監物は惘然と手を拱いた。……明日こそ城中に采女を斬って自刃しようと、覚悟を決した監物は、信太郎に托すべき数々の事があって、既に遺書も認めてあるのだ。
「一両日延ばす訳にはゆかぬか」「はい、是非これより立たせて頂きたく、実はいま駕籠も申し付けてまいりました。幸い雨もやみました様子、雲間に月も見えまするゆえ、月見ながらの夜道も風流かと存じまする」「――――」監物は黙って机上の鈴を振った、そして若侍が来ると、
「小雪にこれへ参れと云え」と命じた。小雪が乳母に手を曳かれて入って来ると、監物は暗い眼を振向けて、
「信太郎がこれから江戸へ帰るそうだ」「え……」小雪の顔がさっと蒼ざめた。
「突然参上致し、長々とお世話を相掛けました、急に思いたちましたので、これから出立仕りたいと存じます」「それは、……急な、――」「御厄介の御礼も致さず、不本意千万ではござりまするが、幾重にも御容赦下さい」そう云って信太郎は監物の方へ向直り、
「お別れに就てお願いがございます、文絵どのの御位牌を頂戴致しとうございます」「位牌をどうする」「信太郎の妻は文絵どの唯一人、生涯文絵どのの位牌を守って、冥福を祈りたいと存じます」