Read classic Japanese books with furigana
ja-reading.com
Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.
きそおんたけのりょうめん
木曽御嶽の両面
吉江 喬松
Read 木曽御嶽の両面 (きそおんたけのりょうめん) by 吉江 喬松 (よしえたかまつ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 15,819 characters · 32 screens
仰いでも望んでも霧と雨、果ても知れず深い千古の谿にふり灑ぐ雨の音、黙々として谿を巻き林を覆うて浮動している霧の姿、圧すべき人類もない深山の中で、人などは度外に置いて、霧と雨とが勝手に動いているのだ。
御嶽は信濃に向っては大きな山であるが、飛騨に面しては殆ど垂直のように思われる。その深い峰の中腹を伝って下りて行くのである。何処まで行けば人里に出られるのかというような気がする。時計を見るともう四時だ。「ねえ君。これは四里や五里の道じゃないぜ。」「何里だか知らないが疲れてしまった。」雨中を六里は確かに下った。身に着けている物は一切濡れてしまった、マッチさえ火が付かない、煙草を吸う術もない。もう外部に対する勇気はなくなった。不平を口にする事すら出来ない、殆んど何処へ行くという考えもなく、また別に深い苦痛も感じない。無意識のままで、すたすたすたすた足を運んで行くばかりである。「人」だという感念すら失っている。
路が漸く急に下って、林が尽きて草山に出た。局面の変化は多少の希望を繋がせるものである。遠くに瀬音が聞えだした、益田川の本流であろう。その瀬音を耳にすると一行は俄に元気付けられた。