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つばきのはなのあか
椿の花の赤
豊島 与志雄
Read 椿の花の赤 (つばきのはなのあか) by 豊島 与志雄 (とよしまよしお) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 10,755 characters · 22 screens
「人形じゃありませんか。」と正枝が云った。
「え、人形……。」
あとから李が叫んで駆け寄った。そして五人いっしょに立並んで、じっと瞳を凝らすと、まさしくそれは大きな裸の人形で、俯向きに草のなかに放りだしてあり、頭のおかっぱの毛がちょっぴり見えていた。それでも一同は、なんだかまだ気味わるく、手出しする者もなく、首を傾げて人形を見つめていた。
そこへ、いつのまにやって来たか、別所が蒼ざめた顔に眼を見据えていたが、不意に笑いだし、椿の茂みをくぐって、建物の壁の根本につんであった煉瓦を三つ抱えてきて、物も言わず、それを人形の上に投げつけた。一つは外れたが、二つは的中して、人形は首が飛び、胴体に穴があき、足が一本折れた。ところが、そのばらばらな人形が却って不気味になり、三個の煉瓦がいやな風情を添え、それにまた、へんに椿の落花がそこいらに多くて、ぼたりと落ちてるのが、古いのは腐爛を思わせ、新らしいのは血潮を思わせた。
「片附けておきなさい。」
半ばはチヨに、半ばは誰にともなく、正枝は云いすてて、眉をひそめて立去っていった。
別所は人形に煉瓦を投げつけてから、血の気の引いた顔に硬ばった皺を寄せ、石のようにつっ立っていたが、李にさえ言葉もかけず目も向けずに、すーっと自室へ戻っていった。