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そり
橇
黒島 伝治
Read 橇 (そり) by 黒島 伝治 (くろしまでんじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 11,663 characters · 24 screens
そこには豚の脂肪や、キャベツや、焦げたパン、腐敗した漬物の臭いなどが、まざり合って、充満していた。そこで働いている炊事当番の皮膚の中へまでも、それ等の臭いはしみこんでいるようだった。
「豚だって、鶏だってさ、徴発して来るのは俺達じゃないか。それでハムやベーコンは誰れが食うと思う。みんな将校が占領するんだ。――俺達はその悪い役目さ。」
吉原は暖炉のそばでほざいていた。
飼主が――それはシベリア土着の百姓だった――徴発されて行く家畜を見て、胸をかき切らぬばかりに苦るしむ有様を、彼はしばしば目撃していた。彼は百姓に育って、牛や豚を飼った経験があった。生れたばかりの仔どもの時分から飼いつけた家畜がどんなに可愛いものであるか、それは、飼った経験のある者でなければ分らないことだった。
「ロシア人をいじめて、泣いたり、おがんだりするのに、無理やり引っこさげて来るんだからね、――悪いこったよ、掠奪だよ。」
彼は嗄れてはいるが、よくひびく、量の多い声を持っていた。彼の喋ることは、窓硝子が振える位いよく通った。
彼は、もと大隊長の従卒をしていたことがあった。そこで、将校が食う飯と、兵卒のそれとが、人間の種類が異っている程、違っているのを見てきているのであった。