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ぬまふじん
沼夫人
泉 鏡花
Read 沼夫人 (ぬまふじん) by 泉 鏡花 (いずみきょうか) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 39,541 characters · 78 screens
糠雨が降って来たもの。その天窓から顔へかかるのが、塵塚から何か出て、冷い舌の先で嘗めるようです。
水の音は次第々々に、あるいは嘲り、あるいは罵り、中にゃ独言を云うのも交って、人を憤り世を呪詛った声で、見ろ、見ろ、汝等、水源の秘密を解せず、灌漑の恩を謝せず、名を知らず、水らしい水とも思わぬこの細流の威力を見よと、流れ廻り、駈け繞って、黒白も分ぬ真の闇夜を縦に蹂躪る。と時々どどどと勝誇って、躍上る気勢がする。
その流れるに従うて、我が血を絞り出されるようで、堪え難い。
次第に雨が溜るのか、水が殖えたか、投出してる足許へ、縮めて見ても流が出来て、ちょろちょろと搦みつくと、袖が板のように重くなって、塵塚に、ばしゃばしゃと沫が掛る、雫が落ちる。
地鳴が轟として、ぱっと一条の焔を吐くと、峰の松が、颯とその中に映って、三丈ばかりの真黒な面が出た、真正面へ、はた、と留まったように見えて、ふっと尾が消える。
下りの終汽車らしい、と思った時、
(あ痛、痛。)
はっと擦寄ると、あの人がぶるぶる震えて、
(胸が。)と云う、歯の根が合わない。
(冷えたんです。)
と言いながら、私もわなわなし出した。