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せいしゅうかんそうわ

清修館挿話

林 芙美子

Read 清修館挿話 (せいしゅうかんそうわ) by 林 芙美子 (はやしふみこ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 10,062 characters · 20 screens

Aozora Bunko

「まア!」

「やア、さつきは……」

「まア、本当に私こそさつきはありがとうございました。お蔭様で、あのウ……どなたかお友達でもお訪ねになつてこゝへいらつしやいましたの」

「いゝえ、僕ア実は昨夜こゝへ越して来たんですが、清修館と云うのが自分の下宿だとは思いませんでしたから……」

「オホッホ……まア呑気な方、私二階の四号室です、どうぞ遊びにいらつして下さいませ」

「ハア、ありがとうございます」

谷村さんは何か子供つぽくうれしくなつて、水道の栓も忘れた位、勇んで部屋へかえりますと、もう顕微鏡の事なんぞも忘れ果てて、ジリジリと釦を押しました。

「お呼びですか」

「あゝお腹が空いたんだ」

「まア、谷村さんたら随分憎らしいわ、御飯上げましようかと云つたら、もう一時間位して持つて来てくれつて云うし、ゆつくりしていると、じきに釦を押すし……」

「たのむ、僕が悪いんだよ」

谷村さんは髪に練り油をつけながら、また肩で笑つて見せました。

4 清修館へ越して二度目の夕飯です。めじまぐろの焼いたのに、油揚げと大根の汁と、葱蒟蒻の味噌なます、谷村さんはどれも好物ではありませんでしたが、太つちよの下女の持つて来るお櫃が待ち切れないで、そつと、味噌なますなんぞ摘んでみたりしました。