Read classic Japanese books with furigana
ja-reading.com
Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.
ぼうふううにおわったいちにち
清風荘事件 他8編
松本 泰
Read 清風荘事件 他8編 (ぼうふううにおわったいちにち) by 松本 泰 (まつもとたい) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 20,532 characters · 43 screens
「……お見えになりませんが……さっきから、まだお戻りにならないのでございましょうか?」
「だって、乗っていったボートが戻ってこないじゃあないか。おい、早く裏の為吉を呼んでこい! 磯公を呼んでこい。宝沢が兜岩へ行っているんだ! ぐずぐずするな! 時化が来てるぞ!」
伊東はいつにない荒々しい言葉で叫んだ。
女中が慌てて裏木戸を出ていったかと思うと、たちまちどしゃ降りになってきた。沖の空を裂いていた稲光がだんだん激しくなり、海の底を割ってくるような雷鳴が窓ガラスをびりびり震わせた。
雷雨はますます強くなってきた。疾風が裏山を鳴らしている。
「何をしているんだ! まだ為吉は来ないのか!」
伊東は苛々しながら裏の小窓を開けて、雨の吹き込む中に闇を透かしたり、また表側に回っていって、怒濤の荒れ狂う暗い海の中に見えないボートを捜し求めた。
伊東は岩に取り縋っている宝沢の断末魔の形相を思い浮かべた。彼は部屋を歩き回っているうちに、暖炉の飾棚の上に見慣れぬ黒手帳を発見した。
「おや、宝沢の手帳だ!」
手帳の下から、ぱらりと一枚の紙片が落ちた。それには鉛筆で、“ストーブに入るべきもの”と走書きがしてあった。