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わたらせがわ
渡良瀬川
大鹿 卓
Read 渡良瀬川 (わたらせがわ) by 大鹿 卓 (おおしかたく) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 280,528 characters · 557 screens
政府も虚心に有難くそれを聴くべきで、ただ自分たちに都合のよいように従順にさえしてゆけば、それが和衷協同というような考えを持つようだったら大変だ。そんなべらぼうな和衷協同は天地の間にあるものでない。それは権勢に対する阿諛を強いることだ」
言葉を切った正造の額には繩のような太皺がより、目差しが異様なひかりを帯びていた。広島で見聞した忌しい印象がさまざまと蘇ったのである。大本営の下、陛下が宸襟をなやましたもう国家存亡の場合を弁えず、某大臣が折花攀柳の醜聞を流したことである。しかし正造はそのことは胸底に沈めたまま語気をかえて、
「わしは今度広島でまことに胸のすく有難い話をきいてきた。宗方小太郎という人が草奔一介の身で大本営御在所の前庭に伺候してじきじきに拝謁を賜り、そのあとで側近の人々を通じ縷々二時間にわたって支那の形勢について御下問があったということだ」
「この間の新聞にも出ていました。芝罘で密偵をやっていて万死に一生を得て帰ったという……」江森泰吉が言葉をはさんだ。
「それが拝謁の時はとくに滞支中の支那服を着用せよという御内命だったので、宗方は感激して辛酸のいろに染った支那人の姿でまかり出た。