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わたらせがわ
渡良瀬川
大鹿 卓
Read 渡良瀬川 (わたらせがわ) by 大鹿 卓 (おおしかたく) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 280,528 characters · 557 screens
また今頃の季節になると、何千何万という渡り鳥が羽音で空を震動させてくるありさまで、鳥猟も多かった。収穫も堤外地で大麦が一反三石以上、菜種なら一反二石も採れ、他県から菜種を買いに来るに、千や二千の金を持たなければ来れなかったというくらいです。水田からは米が八九俵とれまして、まったく天与の富にみちた土地でした。それがどうです。今は見渡す限りこのありさまで」
と、正造は白い髯の先をふって※(「臣+頁」、第4水準2-92-25)を左右へ動かし、
「仕方なし、こうして葭を植えてしまったのです」
「まあ」と、松本英子が声をあげた。「この葭は植えたのですか。私はまた、自然に生えたのだと思って驚いていたのですが」
「なんの、なんの、みんな三期の毒野です」
「三期と申しますと?」
「いま申した穀物の収穫のあった時代を一期とすれば、収穫がなくなって畑には桑を、田には柳を植えた時代が二期、その桑も柳も枯れてしまうので葭原にしたのが即ち三期です。葭なら水陸ともに育つ、屋根や簾の材料に売れるからと思って植えたのですが、育つは育っても性が弱いから、今では焚付けにするより仕方がない。若い者は田畑の値を知らぬという憐れなありさまです。