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ゆなのたましい
湯女の魂
泉 鏡花
Read 湯女の魂 (ゆなのたましい) by 泉 鏡花 (いずみきょうか) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 27,936 characters · 55 screens
行くことおよそ二里ばかり、それから爪先上りのだらだら坂になった、それを一里半、泊を急ぐ旅人の心には、かれこれ三里余も来たらうと思うと、ようやく小川の温泉に着きましてございまする。
志す旅籠屋は、尋ねると直ぐに知れた、有名なもので、柏屋金蔵。
そのまま、ずっと小宮山は門口に懸りまする。
「いらっしゃいまし。」
「お早いお着。」
「お疲れ様で。」
と下女共が口々に出迎えまする。
帳場に居た亭主が、算盤を押遣って
「これ、お洗足を。それ御案内を。」
とちやほや、貴公子に対する待遇。服装もお聞きの通り、それさえ、汗に染み、埃に塗れた、草鞋穿の旅人には、過ぎた扱いをいたしまする。この温泉場は、泊からわずか四五里の違いで、雪が二三尺も深いのでありまして、冬向は一切浴客はありませんで、野猪、狼、猿の類、鷺の進、雁九郎などと云う珍客に明け渡して、旅籠屋は泊の町へ引上げるくらい。賑いますのは花の時分、盛夏三伏の頃、唯今はもう九月中旬、秋の初で、北国は早く涼風が立ますから、これが逗留の客と云う程の者もなく、二階も下も伽藍堂、たまたまのお客は、難船が山の陰を見附けた心持でありますから。