Read classic Japanese books with furigana
ja-reading.com
Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.
はいいろのきおく
灰色の記憶
久坂 葉子
Read 灰色の記憶 (はいいろのきおく) by 久坂 葉子 (くさかようこ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 65,588 characters · 132 screens
完全に五十時間の私を記憶していない。唯、人の話によると、七転八倒し、苦しみもがき、嘔吐し、自分の髪の毛をひっちぎり、よく云われる生きながらの地獄であったそうな。
気がついた時、私の耳にラジオがきこえた。
「ヘ短調ね」
私は口の中で呟いたようだったけれど、声には出なかった。脚も手も動かそうとしても動かない。傍に医者が私の表情をみまもっているのがぼんやりみえた。私は生きていることをうっすらと感じた。私は目を閉じてうす笑いを浮べた。その笑いは自嘲とも得心ともつかぬものであった。二三時間たったのであろうか。私は体全体のいたみを感じはじめた。片手をゆっくり動かし、もう一方の腕をさわった。皮膚の凸凹が注射の跡であることを知った。その手で肢体にもふれた。更に多くの凸凹にふれた。熱が相当たかかったし、頭痛や腰痛がかなり激しかった。目の上に、うすい膜がはられたように、みるものが全部灰色がかってみえた。ひっきりなしに、喉の渇きを感じ、水呑みの先に口をくわえたまま、冷い水をお腹まで通すことを続けた。
それは夕方から晩にかけてであった。
翌日、大部意識もはっきりして自分の存在が、ひどくあわれっぽく感じた。