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ぼんのうひぶんしょ
煩悩秘文書
林 不忘
Read 煩悩秘文書 (ぼんのうひぶんしょ) by 林 不忘 (はやしふぼう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 86,705 characters · 173 screens
「ほほほほほ――。」どこか近くに、女の笑い声がする。
お多喜は、耳を疑って辺りを見まわした。
笑い声は、どうやら社の縁の下から響いて来るらしい。ぎょっとしながら、お多喜がそっちへ廻って、高い縁の下を覗いてみると――女が寝ているのだ。
「なんだい、お前さん。お乞食かえ。」
気味の悪いのをこらえて、お多喜はそう声をかけたが、女は、答えない。
向うむきに寝ているのである。
地べたに莚を敷いて、髪を振り乱し、垢とほこりに汚れた着物を着て、跣足だった。
顔は見えないが、二十八、九、優形のようすのいい女なのだ。
「ほほほほほ、おかしいねえ。殿様が女に斬られたりしてさ。」
と女は、独り言をいって、また笑った。
さっきの笑いの出どころが、この女とわかると、お多喜はすっかり安心して、
「お前さん、何をひとりでぶつぶつお言いだえ。」
と覗きこんだが、今の、殿に斬られて云々という言葉がちょっと耳に触って、お多喜は解せぬ面持ち、
「何を言ってるんですよ。寝言をいってるのかえ。」
すると、女、犬のようにざかざか這って、縁の下を出て来たかと思うと、お多喜の前にすっくと起ち上って、
「ほほほほほ! あなたのお顔に、蝶々がとまっていますえ。