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うしのまるやき
牛の丸焼
中谷 宇吉郎
Read 牛の丸焼 (うしのまるやき) by 中谷 宇吉郎 (なかやうきちろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 4,119 characters · 9 screens
この秘密保持には、単に宝物をかくすためというだけでなく、原始宗教的な迷信がともなっている。タブーがまだ生きている社会であるから、家霊がその洞窟を護っていると、固く信じ込んでいる。そのアク・アクの許しを得ないで、他人を洞窟に入れたり、宝物を持ち出したりすると、必ず祟りがあるといわれている。そして事実、そういう祟りがあるのである。
いろいろないきさつがあって、この著者が遂に秘密の洞窟へ入ることを許されるのであるが、その度毎に、アク・アクを慰めるために、鶏のクラントウを献るのである。行動は全部真夜中、暗闇の中で行わなければならない。部落を遠くはなれた、熔岩の原のなか、人影などはもちろん無い。案内の家長は、洞窟の入口近いところにしゃがみ込み、素手で砂を掘り始める。そこには、朝からクラントウが仕込んであったのである。
初めに、夜目にも光る緑の芭蕉の葉が出てくる。葉は何枚にも重ねられていて、だんだんめくっていくと、次第に褐色にかわっていて、湯気が立ち、汁気が出てくる。そして最後に丸焼にされた鶏の白い肉が現われる。さつま芋も一緒に、こんがりと焼けている。経験したこともないような甘美な芳香が、夜気の中にまじって立ちあがる。