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くるいだこ

狂い凧

梅崎 春生

Read 狂い凧 (くるいだこ) by 梅崎 春生 (うめざきはるお) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 111,430 characters · 226 screens

Aozora Bunko

栄介のことを間違えて、

「おお、城介か。除隊になったのか」

それも発音がはっきりしないので、三度四度聞き返して、やっと判った。彼は父親を哀れに思った。哀れに感じるそのことが、彼にはつらかった。

「そうだ。そうだよ。お父さん」

栄介はうなずいて見せた。

「元気で帰って来たよ」

病室は前庭が見える部屋である。そこが一番風通しがよかった。しかし夕凪ぎの時刻になると、風はぴたりと止んだ。

寝たきりなので、福次郎の背は床ずれを起している。暑い時節なので汗が出て、ひどくなる傾向があった。その治療を栄介は自分に課すことにした。福次郎の背は丸まって、脊椎の一筒一筒が突出している。不時の客に見られると困るので、障子を全部しめ切って、膿を拭ったり、ガーゼを取り換えたりする。温気と膿のにおいが、部屋中にみなぎる。

「これがおやじのにおいなのだ」

彼は用心深く手を動かしながら思う。栄介たちが幼ない時、壁にかかった福次郎の着物や外套に顔を押しつけ、

「やあ。お父さんのにおいがする」

その頃の父親の体臭は、衣類にしみついたタバコのにおいであった。それが今は膿と汗のにおいに変っている。