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きょうかしあかちょこべえ
狂歌師赤猪口兵衛
夢野 久作
Read 狂歌師赤猪口兵衛 (きょうかしあかちょこべえ) by 夢野 久作 (ゆめのきゅうさく) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 39,418 characters · 79 screens
「オ……オ……和尚様。チョ、チョット和尚様。バ……妖怪が……」
まだ薄暗い方丈の、朝露に濡れた沓脱石まで転けつまろびつ走って来た一人の老婆が、疎らな歯をパクパクと噛み合わせて喘いだ。
「ナ……何で御座る。もう夜が明けておるのに……バ……バ……バケモノとは……」
方丈の明障子をガタガタと押開けて大兵肥満の和尚が顔を突出したが、これも見かけに似合わぬ臆病者らしく、早や顔色を失って、眼の球をキョロキョロさせていた。
「おお、そなたはこの間御授戒なされた茶中の御隠居……」
老婆は縁側へ両手を突いたまま、乾涸びた咽喉を潤おすべくグッと唾液を嚥み込んだ。
「……ア……アノ蔵元屋どんの墓所の中で……シ……島田に結うた、赤い振袖の女が……胴中から……離れ離れに…ナ……なって……」
「ゲッ……島田の振袖が……フフ振袖娘が……」
「ハ……ハイ。足と胴体と、離れ離れになって……寝ておりまする。グウグウとイビキを掻いて……」
「ヒヤッ……イビキを掻いて……それは真実……」
「……コ……この眼で見て参じました。今朝、早よう……孫の墓へ参りました帰り途に、裏通りを近道して、祇園町へ帰ろうと致しましたれば……あ……あの桃の花の上がっておりまする、蔵元屋の……お墓の前で……」