Read classic Japanese books with furigana
ja-reading.com
Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.
いのししのあじ
猪の味
北大路 魯山人
Read 猪の味 (いのししのあじ) by 北大路 魯山人 (きたおおじろさんじん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 4,083 characters · 8 screens
五銭ばかり買うのだから、どうせ上等のところはくれまいなどと、ひがみ心まで起こしながら、いろいろ空想していたことを、今でもきのうのことのように覚えている。
そうしたある日のことだった。いつものように店先に立って見ていると、親爺が二寸角ぐらいの棒状をなした肉を取り出して来て、それを一分ぐらいの厚さに切り出した。四角い糸巻型に肉が切られて行く。その四角のうち半分ぐらい、すなわち、上部一寸ぐらいが真白な脂身で、実にみごとな肉であった。十ぐらいの時分であったが、見た時にこれは美味いに違いないと心が躍った。脂身が厚く、しっかりしている。肩の肉か、股の肉か、その時は分らなかったが、今考えてみれば、おそらく肩の肉、すなわち、豚肉で言う肩ロースであったと思う。
その代り、親爺はそれを十切れぐらいしかくれなかった。子ども心にも非常に貴重なもののようにそれを抱えて、楽しみにして帰って来た。うちの者も、その肉の美しさを見て非常によろこんでいた。早速煮て食ってみると、果せるかな、美味い。肉の美しさを見た時の気持の動きも手伝ったことだろうと思うが、食道楽七十年を回顧して、後にも先にも、猪の肉をこれほど美味いと思って食ったことはない。