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さるとびさすけ
猿飛佐助
織田 作之助
Read 猿飛佐助 (さるとびさすけ) by 織田 作之助 (おださくのすけ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 30,413 characters · 60 screens
晩飯は同じく四条、元室町出仕の吉岡憲法の道場、翌日の朝飯は百万遍、舎利無二斎の道場と洛中の道場を一つ余さず食べつくした挙句、やがて京の都を今日(京)を限りに大坂へ現われた時に既にアバタの茶漬け侍の威名は、その醜いアバタ面の噂と共に、大坂中に鳴り響いていた。
大坂の道場もまた、佐助の忍術の前には赤子同然であった。
その赤子の手を軽くねじった佐助の足は、やがて、須磨、明石、姫路、岡山へと中国筋に伸びて、遂に九州の南の端にも及び、琉球の唐手術も佐助の前には、脆かった。
佐助の自尊心は、ここに到って、アバタのひけ目を補って余りあるくらい満足され、
「天下ひろしといえども、この俺より強い者に一人も出会わなかったとは、はてさて弱い奴ばかしが、佃煮にするほどおったものだわい」
と、歩き方も変って来たが、しかし、帰りの道を歩いて帰るのは、いささかおっくうであつた。
一体に、武芸者が諸国を漫遊するのは、自分より強い武芸者に会うて、教えを請い、自分の腕を磨きたいという気持よりも、むしろ、天下に自分より強い者がおるかどうかを知りたい、自分より強い者がいないことを確かめて、自己満足に酔いたいという傲慢な虚栄心から、漫遊するのが常である。