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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
Read 獄中への手紙 (ごくちゅうへのてがみ) by 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 174,521 characters · 344 screens
きょうは十日です。鴎外の翻訳だと、「楽の音はたとやみぬ」とでも云いそうに、旋律は途絶えました。あすこ迄書いていたら寒気がして来てたまらなくなったので、早速熱いものをのんで、ゆたんぽをこしらえて床へ入ってしまいました。夜の九時頃まで眠って目がさめたら、寒気はとまって、おなかがすいたのが分ったので、おきて御飯こしらえてたべました。働きすぎや何かで疲れたのね。八日のひる頃、そちらへ行こうとしていたら、寿江から電話で見舞いに来てくれました。八日の晩と九日の晩は、数日来になくよく眠って、大分きょうはましです。眼がすこしマクマクぐらいのことで。寿はきょう一寸千葉へかえり、明日又来てくれる由。「いくら壕があったって、たった一人おいておくなんて」それが本当よ。心もちの上では、ね。壕が丈夫だから一人でいいというのなら簡単ですけれど、もし万事それですめば。
この間うちから落付いて書きたいと思っていたことも、間奏曲が入って来てしまいましたから、これはこれでまとめてしまいましょうね。こんなに凸凹したような手紙、珍しいし、へばり工合が、おのずから窺われもいたします。本もののときなんか、たった一人というのは、あとの疲労の重さの点からもよくないと思います。