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たまものまえ
玉藻の前
岡本 綺堂
Read 玉藻の前 (たまものまえ) by 岡本 綺堂 (おかもときどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 130,703 characters · 261 screens
もうこうなれば何もかも白状するが、実は兼輔に迫られて、自分は彼の恋をいれたのである。勿論、そのときに実雅との約束を楯にして、彼女は必死に断わったのであるが、兼輔はどうしても承知しないで、実雅のような愚か者がなんと言おうとも恐るるには及ばぬ。彼が執念深くぐずぐず言ったら、自分がきっと引き受けて二度とは口を明かせぬようにして見せる。なんの、食らい肥りの貧乏公家が何事をなし得ようぞと、彼はさんざんに実雅を罵って、無理無体に彼女を自分の物にしてしまった。思えば女子は弱いもの、その当座は身も世もあられぬほどに悔み悲しんだが、今となってはもうどうすることも出来ないので、彼が誘うままに今夜もうろうろと屋形をぬけ出して来たのである。さぞ憎かろうが、どうぞ堪忍してくれと玉藻は泣いて訴えた。
「それは定か、いつわりないか」と、実雅は苛いらしながら念を押した。
「なんのいつわりを言いましょう。神かけて……」
「よし。思案がある」
玉藻を突き放して実雅は暗い大路を暴れ馬のように駈けて行った。大きい身体をゆすりながら大股に駈けるのであるから、四条の河原まで行き着いた頃には、ほとんど口も利かれないくらいに息が疲れていたが、それでも柳の下にたたずんでいる人の影を透かし視たときに、彼は喉が裂けるほどの大きい声を振り立てた。