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たまものまえ
玉藻の前
岡本 綺堂
Read 玉藻の前 (たまものまえ) by 岡本 綺堂 (おかもときどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 130,703 characters · 261 screens
遠光は主人の内意をうけて、わざと玉藻のゆく手をさえぎって無理無体に喧嘩を仕かけ、関白家の供のものを追っ払った上で、玉藻をここで討ち果たしてしまおうという心組みであった。頼長のそばには藤内太郎、藤内次郎という屈竟の射手が付き添うていて、手にあまると見たらばすぐに射倒そうと、弓に矢をつがえて待ち構えていた。頼長は勿論、射手の二人も山門のかげに身を忍ばせていたのであるが、早くも玉藻に覚られたらしい。彼女はこちらの裏をかくようにあざけりの笑みをくれて、徐かにここを立ち去った。この機会を取り逃してはならぬと、頼長の指図で二人はすぐ牛車のうしろから射かけたが、二人ながら不思議に仕損じた。あわてて二の矢をつがえようとすると、弓弦は切れた。牛車はそれを笑うように、輪の音を高く軋らせながら行き過ぎてしまった。
眼のあたりにこのおそろしい神通力を見せられて、射手の二人も遠光も息をのんで立ちすくんでいた。頼長は一人で苛いらしていたが、驚きと恐れとに脅かされている家来どもをいかに叱り励ましても、しょせんはその効はあるまいと思われた。
「悪魔めをこの山門内に踏み入れさせなんだが、せめてもの事じゃ」