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たざきそううんとそのこ

田崎草雲とその子

吉川 英治

Read 田崎草雲とその子 (たざきそううんとそのこ) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 19,568 characters · 40 screens

Aozora Bunko

白昼の白張提灯行列 父は勤王子は佐幕

『ホ、ホ、ホ、ホ』

と、高くわらった。

『おいっ。しっかりせいッ、気をたしかにせんか! 菊っ――菊っ――』

彼は、狂う妻を、大きな両腕の中に、いっぱいに抱きしめた。怖らくは、彼が生涯にあらわした愛のうちでも、最大の力と涙をもったものに違いない。

白昼の白張提灯行列

父は勤王子は佐幕

お菊の良人思いな声は、とうとう二度と聞くことができなかった。

貧は、彼女を狂人にした。

青白く、寝床に痩せて、あの夜から、起たなかった。時に、畳の目へ、紙をなめては、貼っていたりするので、

『お前、何をしているのか』と、訊ねると、

『あんまり、蚤が出るから』

と、答えた。――それがもう肌寒い冬の風が、訪ずれ初むる頃だった。

程なく、彼女は、生涯を終った。格太郎の悲しみを、草雲は見ていられなかった。同時に、この衝動が、若い彼に、虚無的な思想を起させはしまいかという点を、親心に、惧れもした。

それが、動機ではないが、果して、次の変化は格太郎の上にきた。恋はいつか隣り同志で結ばれていたのである。

菊女の死に、草雲は、それを忘るべく遊歴に出た。その留守のまに、お房と格太郎の接近する機会があったものらしい。