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らい
癩
島木 健作
Read 癩 (らい) by 島木 健作 (しまきけんさく) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 37,753 characters · 74 screens
――朝夕の二度はこうして脈々たる感情がこの箱のような建物のあらゆる隅々に波うち、それが一つになってふくれ上った。
2
間もなく日が黄いろ味を帯びるようになり戸まどいした赤とんぼがよく監房内に入って来ることなどがあって、ようやく秋の近さが感ぜられるようになった。そういうある日の午後少し廻ったころ、太田は張り終えた封筒を百枚ずつせっせと束にこしらえていた。
彼の一日の仕上げ高、はぼ三千枚見当にはまだだいぶ開きがあった。残暑の激しい日光を全身に受けてせっせと手を運ばせていると、彼はにわかに右の胸部がこそばゆくなり、同時に何か一つのかたまりが胸先にこみあげてくるのを感じたのである。何気なく上体をおこすとたんに、そのかたまりはくるくると胸先をかけ巡り、次の瞬間には非常な勢いで口の中に迸り出て、満ち溢れた余勢で積み重ねた封筒の上に吐き出されたのであった。
血だ。
ぼったりと大きな血塊が封筒のまん中に落ち、飛沫がその周囲に霧のように飛んだ。それはほとんど咳入ることもなく、満ち溢れたものが一つのはけ口を見出して流れ出たようにきわめて自然に吐き出された。だが次の瞬間には恐ろしい咳込みがつづけさまに来た。