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しろくれない
白くれない
夢野 久作
Read 白くれない (しろくれない) by 夢野 久作 (ゆめのきゅうさく) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 24,846 characters · 50 screens
浅黄色なる炊煙ゆる/\立昇りて半眠れるが如き景色なり。
扨は人家ありけるよと打喜び、山岨の道なき処を転ぶが如く走り降り、やゝ黄ばみたる麦畑を迂回りつゝ近付き見るに、これなむ一宇の寺院にして、山門は無けれど杉森の蔭に鐘楼あり。前庭の洒掃浄らかにして一草一石を止めず。雨戸を固く鎖したる本堂の扁額には霊鷲山、舎利蔵寺と大師様の達筆にて草書したり。方丈の方へ廻り行くに泉石の按配、尋常ならず。総檜の木口数寄を凝らし、犬黄楊の籬の裡、自然石の手水鉢あり。筧の水に苔蒸したるとほり新しき手拭を吊したるなぞ、かゝる山中の風情とも覚えず。又、方丈の側面の小庭に古木の梅あり。その形豆に似て、真紅の花を着けたる蔓草、枝々より梢まで一面に絡み付きて方丈の屋根に及べるが、流石に山里の風情を示せるのみ。
われ此等の風情を見て何となく不審に堪へず。一めぐりして庫裡の辺より、又も前庭に出で行かむとする時、今の籬の裡なる手水鉢の辺に物音して人の出で来る気はひあり。此寺の和尚にやあらん。如何なる風体の坊主にやと件の蔓草の葉蔭より覗き見るに、出で来るものは和尚に非ず。籬の隙間より洩れ来るは色白く、眉青く、前髪より水も滴らむばかりの色若衆の、衣紋仇めきたる寝巻姿なり。