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しらふじ
白藤
豊島 与志雄
Read 白藤 (しらふじ) by 豊島 与志雄 (とよしまよしお) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 7,822 characters · 16 screens
広い棚を拵えずにただ支柱で支えられてる藤蔓、その蔓から群がり垂れてる真白な花、それを軒先に持ってる清楚な家、ただそれだけのものですが、その白藤の余り長からぬ花房とその住居のひそやかさとが、一つに融け合って匂っていました。
それはすぐに車窓から飛び去りましたが、草光保治はなおその姿を心で眺め続けました。他の何処かで度々見たもののようでもあり、長く夢みていたもののようでもありました。
その心像が胸の奥にひそんで、時折、飛びだしてくるのでした。
白藤の花とその家……そこに彼女の面影がありました。忘れるともなく忘れはしたが、然し忘れかねる彼女であり、細川美代子と名前を言うには、もう余りに遠い彼女でした。すべてが変りすべてが新らしく眺められる環境のなかで、遠い彼女だけが昔のままの面影を保っていました。
細川美代子は、少しも人目につかぬ娘でした。普通の背丈で、肥ってもいず痩せてもいませんでした。容貌も尋常で、美しくもなく醜くもありませんでした。性質も温良なだけで、特別な長所も短所もありませんでした。大勢の人中に置いても、見勝りもせず見劣りもせず、つまり、少しも人目につかない娘でした。