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はくはつき
白髪鬼
江戸川 乱歩
Read 白髪鬼 (はくはつき) by 江戸川 乱歩 (えどがわらんぽ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 112,046 characters · 224 screens
この覗き穴からよく見給え」
わしの声につれて、川村はフラフラと覗穴に近づいて来た。そこから、目を出して、わしの顔を見つめた。二人の顔は五寸と隔たぬ近さで向い合った。川村は長い間、わしの顔を凝視していたが、やがて失望した様に叫んだ。
「違う。やっぱり俺は見覚がない。貴様がどうして、俺をこんな目に合わせるのか、少しも分らん」
「待ち給え。川村君。僕の声は、よもや忘れはしないだろうね」
突然、わしは里見重之の作り声をやめて、昔の大牟田敏清の若々しい声で云った。
五寸の近さの川村の顔に、ゾーッと鳥肌の立つのが見えた。彼の目は一瞬間、全く生気を失い、口は白痴の様にだらしなく開いた。
「オイ、川村君。仮令声は忘れたとしても、僕のこの目を、よもや忘れはしまい。昔は無二の親友であった男の目を」
わしは一語一語圧えつける様に云いながら、大きな黒眼鏡をはずした。そのあとには、これ丈けは昔ながらの、大牟田敏清の眼が光っているのだ。
これを見た川村の両眼は、眼窩を飛び出すかと疑われた。もじゃもじゃになった髪の毛が、一本一本逆立ったかと怪しまれた。
何とも形容の出来ない、絞め殺される様な悲鳴が耳をつんざいたかと思うと、川村の顔が覗き穴から消えた。