Read classic Japanese books with furigana
ja-reading.com
Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.
やのしのとい
矢押の樋
山本 周五郎
Read 矢押の樋 (やのしのとい) by 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 14,468 characters · 29 screens
――もう駄目だ、北見の田もいけない。
――幾ら苦労してもこの土地では無駄だ。
みんな絶望してそう思いはじめた。
――もっといい土地へ行こう、農作に安全な土地へ行こう。
梶之助は幸兵衛からその事情を聞いた。十余ヵ村の農民が結束して退国するような事が、若し実現したとしたらどうなる、更にそれが伝わって領内到るところに波及したとしたら、……恐らく拾収のつかぬ騒動になるだろう、どんな方法を以てしても、是は未然に防がなければならぬ事だ。梶之助はいま幸兵衛の助力で、その必至の方法を実行しようとしているのである。
「粗茶でございます」
ほどなく着替えをした加世が、静かに入って来て茶と菓子とを勧めた。
「これは珍しい」梶之助は娘の方へは眼も呉れずに、無造作に手を伸ばして菓子を摘んだ。
「砂糖漬けの杏子とは久方振りだ」
「お口には合いますまいが」幸兵衛は笑って娘を見やりながら云った、「加世めが自慢の手作りでございます、はしたない物でついぞお出し申したこともございませんが、こんな物も斯様な折にはお口汚しにはなりましょう」
「是が拙者には子供時分からの好物だった。武家は貧乏なものだから、砂糖漬けの菓子などは中々口に出来ないものです」