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いしかりがわ
石狩川
本庄 陸男
Read 石狩川 (いしかりがわ) by 本庄 陸男 (ほんじょうむつお) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 253,535 characters · 506 screens
「はア」と相手はしゃがんでいた。
逃げも逆らいもしなかった。引戸の前の埃ッぽい土の上に膝をついて、出て来るものを待ち受けていたのだ。ま上にはひろびろとしたあかるい空があり、地の上は蒼黒く、窪み窪みからは夜がひろがっていた。
「なにものじゃ?」
「はい――」と彼は顔をあげた。
置き去られた夕焼けが、仰向けたそのものの顔をうす闇のなかに照しだした。若ものであった。ふっくらとした頬の感じがひどくさわやかに見えた。
「伊達家のわかものじゃな」
記憶をたどるようにしていた役人は、見下してそう云った。税庫の工事場で見かけた顔であったから。
「はい、それがし高倉祐吉と申します」
「なにか、用か」
「はい、ご家老さまに」
「ご家老?――阿賀妻どのか、はいれ」
暗くなった家のなかでは使丁がランプの灯を入れていた。彼はのびあがって、それを堀大主典の前に吊した。人々の顔は黄ばんだ光に染めだされた。
使丁は身をひきながら、大主典に顔をよせて耳打ちした。
堀は目を剥いた。なに?――と聞きなおすのだ。
「ふン、よろしい」と彼は声に出して大儀げに云った、「ここに通すがいい」
使丁はおそれ入ったという風に腰をかがめて去った。