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いしかりがわ
石狩川
本庄 陸男
Read 石狩川 (いしかりがわ) by 本庄 陸男 (ほんじょうむつお) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 253,535 characters · 506 screens
それを気づかずにいた自分らの迂濶さも恥しいものだ。云うならば、彼らもまた自分自身のことにかまけて、今日か今日かと夫を待っている気の毒な女どもを忘れていた。
「明早朝、イシカリ川の氷が溶けぬうち」と彼は腰をあげた、「いろいろ支度もございましょう故、身どもの家内など早速お手伝いに遣わしましょう」
「それで、あの」
女はそう呼びかけて、振りかえられると口籠った。
「何でござるか」
「路用のことなど――」と、彼女は云った。
「それはもう――官船でござれば、官員の家族として待遇される由にて、別にご心配には及ぶまい、なお当座のお手許のことについては、相田どのともご相談いたし――」
「いえ、あの」と彼女は遮るのだ。そのくらいの用意が無い女ではなかった。聞きたいのは全然ちがったことであった。唾をのみこむようにして彼女は云った。「つかぬことをおたずね致しますが、吉原兵太郎さまと申すもの、ご家老さまのお手紙に、こちらにまいると書きあげられてございませんでしたか――」
「はーて、とんと」
大野はしかめた顔をそらして外に出た。
「ぜひもございませぬ」
それを云って了ってから女はふいに蒼ざめた。