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さとうどろぼう

砂糖泥棒

黒島 伝治

Read 砂糖泥棒 (さとうどろぼう) by 黒島 伝治 (くろしまでんじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 4,108 characters · 9 screens

Aozora Bunko

与助の妻は産褥についていた。子供は六ツになる女を頭に二人あった。今度で三人目である。彼はある日砂糖倉に這入って帆前垂にザラメをすくいこんでいた、ところがそこを主人が見つけた。

主人は、醤油醸造場の門を入って来たところだった。砂糖倉は門を入ってすぐ右側にあった。頑丈な格子戸がそこについていた。主人は細かくて、やかましかった。醤油袋一枚、縄切れ五六尺でさえ、労働者が塵の中へ掃き込んだり、焼いたりしていると叱りつけた。そういう性質からして、工場へ一歩足を踏みこむと、棒切れ一ツにでも眼を見はっていた。細かく眼が働く特別な才能でも持っているらしい。

彼は与助には気づかぬ振りをして、すぐ屋敷へ帰って、杜氏(職工長の如き役目の者)を呼んだ。

杜氏は、恭々しく頭を下げて、伏目勝ちに主人の話をきいた。

「与助にはなんぼ程貸越しになっとるか?」と、主人は云った。

「へい。」杜氏は重ねてお辞儀をした。「今月分はまるで貸しとったかも知れません。」

主人の顔は、少時、むずかしくなった。

「今日限り、あいつにゃひまをやって呉れい!」

「へえ、……としますと……貸越しになっとる分はどう致しましょうか?」