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しほんたいへいき
私本太平記(四)
吉川 英治
Read 私本太平記(四) (しほんたいへいき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 229,324 characters · 458 screens
「……お、お覚悟をねがいまする。ぜひない幕命でおざる。おみぐるしくないように」
「そうか」
帝は騒ぎもなさらない。
能登もまた、肩で大きな呼吸をみせた。
「およそは、察していた。いかにも、みぐるしくはしたくないの。……さればこそ、我から遠くへそちを誘うて来たのだ。あわてるにはおよばん」
「なんぞ、お言いのこしでもありますか」
「お、それをいいたい」
「仰せられい」
能登は眼を研ぎすました。
帝は、言った。
「能登。どこを見ておるのだ、そちの眼は」
あきらかな殺意に曝されている無手な自身を――その危険さも――まるで度外視しているようなそれは静かな揶揄だった。
能登は、気をのまれてつい、
「えっ?」
と、いった。
待っていたものを見たように、帝のお唇のへんには微笑がのぼった。
「やはり、そちは島武士の小胆者か。自分以外に何もその眼は見えておらんな」
「…………」
「あわれな奴!」
このときは、声にもらして、笑い出された。
「そちはわしを殺そうとの一念らしいが、なんぞ知らん、儂は宮方の武士に厚く守られておる。それのみか、そちの後ろにはさっきから太刀に反りを打たせて、そちの身を睨めすましておる者どもがおるのだぞ」