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しほんたいへいき
私本太平記(四)
吉川 英治
Read 私本太平記(四) (しほんたいへいき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 229,324 characters · 458 screens
老体は隠者めかしてとぼけているが、じつは諜者をつかって、寄手のうごきをさぐり、ひそかに千早の正成をここで助けているのであろうが。隠してもだめだ、こちらには確証がある」
はなしも最後とみたからであろう。足立源五は切り札を出してしまった。
数日前である。
いくさ奉行の陣所へ、一人の放免が駈け込み訴えに出た。忍ノ権三であったのだ。
その権三の取調べから、忍ノ大蔵のこともわかった。権三は千早の内から逃げ出して来たのである。眼に見てきた城中のもようを告げ、また、大蔵と隠者との関係などもしゃべりちらした。
もっとも、それいぜんから、
「加賀田の山奥に、えたいの知れぬ兵学者がいる」
との噂は入っている。
またその者は、正成、正季の兵法の師で、戦前には近郷の若い郷武者らが、よくそこの山荘に出入りしていたなどということもわかっていた。
「いちど、その人物をたしかめておく要がある」
いくさ奉行長崎は、迂かつではなかったのである。ひょっとしたら、千早を陥すいい智恵を持ちあわせている者かもしれず、ばあいによっては、軍師とあがめて利用してもいい。ともあれ、口実はどうでもいいから連れて来いと、家臣岩切勘左衛門にいいつけた。