Japanese reading practice

Read classic Japanese books with furigana

ja-reading.com

Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.

しほんたいへいき

私本太平記(四)

吉川 英治

Read 私本太平記(四) (しほんたいへいき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 229,324 characters · 458 screens

Aozora Bunko

「覚一さま、ここにおいででしたか」

「お。右馬どのですね」

「昨夜はさぞ、ご迷惑でしたでしょう」

「いいえ、なにも」

「いや、おさまたげしたにちがいない。しかし、さっそく今朝は拙者も退散いたしまする」

「お帰りですか」

「は。三河へ」

「三河とは、一色村でございましょうな。右馬どのの故郷ですね」

「さようです」

「母が、藤夜叉さんへのお手紙を、おたのみしたいと言っておりました。もすこしここでお待ちくださいまし。持仏堂で朝のおつとめをしておりますから」

「それや、ちょうどよい。藤夜叉さまには何よりのおみやげと申すもの」

「右馬どの……」と、覚一は両手の指を揉み合うように膝のうえでもじもじしながら、

「……よくは存じませんが、藤夜叉さんは、何か大きな悩みでも常におもちなのですか」

「さ」

はたと、返辞に窮したように。

「おありかもしれません。なんといっても女性ですから、不知哉丸さまのお行く末などにもつい……」

「高氏さまのお子なんでしょ」

「は」

「なぜ、ご一しょに、お暮しもないのでしょうね」

「さまざまな、ご事情と察しられます。もひとつ、いけないのは、この乱世です」

「乱世なればこそ、なおさら、せめて愛しい者同士ぐらいは」