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しほんたいへいき
私本太平記(四)
吉川 英治
Read 私本太平記(四) (しほんたいへいき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 229,324 characters · 458 screens
「…………」
「やがて正中ノ変となった。あまた宮方の人々は、斬られ、流され、むざんな犠牲となるを見たが、佐々木道誉の名は出ても来ぬ」
「出ぬはずよ、あれは違う」
「どう違う」
「当年、無断上洛の又太郎高氏をこころみたまでのことだわ」
「では、それもよし。しかし先年、後醍醐のきみの隠岐送りにあたって、獄中から護送の途々、何かと、奉仕をつくしたのも」
「武士のなさけ」
「すると、源中納言具行卿を、六波羅から鎌倉へ差下すさい、伊吹のふもとで首斬ッたのも、武士のなさけか。なるほど、その前夜、愛知川の宿では、具行卿をよろこばせ、おなさけぶかいことでおざった。はははは」
高氏はとつぜん、ばかでかい声を発して、なにもかも、かなぐり捨てるような調子で、あぐらの片膝へ、一方の肘と肩とを、らいらくに落して見せた。
「なあ佐々木殿、いや佐々木と呼びすてるぞ。もうお互いに、腹の底の腹巻は脱ろうではないか。当家へは、さぐりの者も入れてある。じつは何もかも、つつ抜けにわかっていたのだ。その代りそちらの息がかかっている者も、足利家の小者溜りにいただいておる。五分と五分だ、ここまでは一切が五分で、一切が両人の碁か双六みたいなものよ、ほんとの知己に至るまでの闘いだった、としようではないか。