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しほんたいへいき
私本太平記
吉川 英治
Read 私本太平記 (しほんたいへいき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 116,638 characters · 233 screens
二条家でも泣き寝入りのほかはない。
彼のこんな行状はすぐ尊氏にも聞えていたろう。しかし師直は、自己の実務的才腕と誠意にかけて、主君の信頼には、ぜったい自信をもっていた。だから彼の好色行状もすこぶる派手で、それがその道だけの達人みたいに喧伝された理由であろう。
彼と、塩冶判官高貞の妻との艶話なども、ひどく市井に喧伝されたものである。
高貞の妻室が、当時、著名な美人であったことが、師直の好色癖にむすびつけられ、好箇な好色談となっていったものらしい。
早田ノ宮の妹で、弘徽殿の西台といわれた佳人がある。
後醍醐天皇が、隠岐から凱旋されたさいは、名和長年をはじめ、勲功の臣には、かつてそれぞれ恩賞が下されたが、出雲の守護、塩冶高貞へは、宮中のその一美人を賜わった。
これが高貞の妻である。
いつ見たのか。師直はこの人妻に懸想して、さまざま言い寄ってみたが、いつも柳に風とうけ流され、煩悩悶々と、やるかたもない想いでいた。或る折などは、塩冶の館の客となって、西台が湯殿にあるのを知り、覗き見までやったという。
また、彼女の歓心をえんためには、兼好法師に恋文の代筆をさせて、彼女の袂へ忍ばすなどの腐心までこころみたが、ついには彼女の良人高貞を亡き者とするに如かずと考え、将軍家に讒して、討手を向け、