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あきぞらはれて
秋空晴れて
吉田 甲子太郎
Read 秋空晴れて (あきぞらはれて) by 吉田 甲子太郎 (よしだきねたろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 9,291 characters · 19 screens
と挨拶してからまるで平地を歩くような様子で急な段階を下りて行く姿を、監督は残り惜しそうな眼で見送っていた。
四
曲り曲って細々と地獄の底までつづきそうな階段を、一男は平気で、ポケットへ手を入れたまま、きょろきょろよそ見をしながらゆっくり下りて行った。だが、彼が二階分ほど階段を下りた時だった。あたりの騒がしい物音を突きぬけて、ガーンと鉄材が鉄材にぶつかる恐しい音響が強く鼓膜をうった。頭の芯まで響いて来た。けたたましい人声が聞えたような気もした。一男は立ちどまって上の方を見上げた。
気がつくと、仕事場中の物音が一斉にとまっていた。さっと風が吹いて一切の物音をさらって行ってしまったあとのようだ。変に気味わるく静まりかえっている。その中から監督の叫ぶ声がハッキリ聞えて来た。
「あいつを止めろ! 呼び戻せ! 今の子供を止めるんだ!」
誰かが、どたんどたんと階段を駈け下りて来るらしく、かすかな震動が一男の体に伝わって来た。
「おい、君!」
やや離れたところから呼ばれて振り返った一男の眼に、蒼ざめた監督の顔が鉄の枠の間から自分を熱心に見つめているのが映った。
「戻ってくれ! 故障だ、怪我人だ」