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くうしゅうそうそうきょく
空襲葬送曲
海野 十三
Read 空襲葬送曲 (くうしゅうそうそうきょく) by 海野 十三 (うんのじゅうざ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 95,012 characters · 189 screens
黄一郎は、腰を起して、父親を促した。
「うン、――よっこらしょい」と長造は煙管をポンと一つ、長火鉢の角で叩くと、立ち上った。「今日は下町をぐるッと廻って大変だったよ。品物が動かんね、お前の方の店はどうだい」
「駄目ですね。新宿が近いのですが、よくありませんね。寧ろ甲府方面へ出ます。この鼻緒商売も、不景気知らずの昔とは、大分違って来たようですね」
「第一、この辺に問屋が多すぎるよ」
長造は頤を左右にしゃくって、表通に鼻緒問屋の多いのを指摘した。この浅草の大河端の一角を占める花川戸は、古くから下駄の鼻緒と爪革の手工業を以て、日本全国に知られていた。殊に、東京好みの粋な鼻緒は断然この花川戸でできるものに限られていた。鼻緒の下請負は、同じ区内の今戸とか橋場あたりの隣町の、夥しい家庭工場で、芯を固めたり、麻縄を通したり、その上から色彩さまざまの鞘になった鼻緒を被せたり、それが出来ると、真中から二つに折って前鼻緒で締め、それを百本ずつ集めて、前鼻緒を束ね、垂れ下った毛のような麻をとるために、火をつけて鳥渡焼く――そうしたものを、問屋に持ちこむのだった。問屋には、数人の職人が居て、品物を選り別けたり、特別のものを作ったりして、その上に商標のついた帯をつけ、重い束を天井に一杯釣り上げ、別に箱に収めて積みあげるのだった。