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ささめゆき
細雪
谷崎 潤一郎
Read 細雪 (ささめゆき) by 谷崎 潤一郎 (たにざきじゅんいちろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 194,628 characters · 371 screens
と、見物席にお茶を配って廻っているお花に云った。
「ケーキか何かあったやないか。あのお鮨貰うて来て、外のもん持ってって上げなさい」
「いえ、わたし食べます。………」
と、シュトルツ夫人は、お花が鮨の皿を貰おうとするのを拒みながら云った。
「ほんとうですか、奥さん、あなたそれお食べになるんですか」
「ええ、食べます、わたしこれ好き。………」
「そうですか、お好きなんですか。………おいおい、そしたら匙か何ぞ持ってって上げなさい」
シュトルツ夫人は本当にちらし鮨が好きであるらしく、お花から匙を受け取ると、その皿のものを一粒も残さず平げてしまった。
休憩時間の次は妙子の「雪」の番なので、貞之助はさっきから気が気でなく、何度も階段を上ったり降りたりしていたが、階下で暫く客の相手をしていたかと思うと、又上って来て楽屋を覗いた。
「おい、もうそろそろ時間やで」
「この通り、支度出来てますねん」
―――八畳の間では、幸子と、悦子と、板倉写真師とが、椅子に腰かけた妙子を取り巻いて坐りながら、ここでも四人がちらし鮨を食べていた。妙子は衣裳を汚さないように膝の上にナフキンをひろげて、分厚い唇の肉を一層分厚くさせつつ口をOの字に開けて、飯のかたまりを少しずつ口腔へ送り込みながら、お春に茶飲み茶碗を持たせて、一と口食べてはお茶を啜っているのであった。