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はだいろのつき
肌色の月
久生 十蘭
Read 肌色の月 (はだいろのつき) by 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 50,706 characters · 101 screens
鍵のかかるバンガローなんか一つもないのに、鍵を預っている男が吉田へ行っているから、バンガローは使えないだろうといったこと、部屋の中はうっとうしいくらいの陽気なのに、むやみに松薪をおしこんで、煖炉を燃やしつけたこと、大池のボートならロッジの近くの岸にあるべきはずなのに、一町も離れたところに繋いであったこと、なにかの方法で催眠剤を飲ませられたらしくて、翌朝まで酩酊状態が残っていたこと……心にかかっていたことを、ありったけ吐きだしたが、主任は笑うばかりで相手にもならなかった。
石倉があらわれるかと、ひそかに怖れていたが、いそがしいのか、石倉はあらわれず、伊東署の連絡係の若い巡査が心をこめて夕食の世話をしてくれた。
食慾はなかったが、無理をして、パン粥を一杯食べた。
「おいしかったわ」
「食が細いねえ。もうすこし、やったらどうだ」
「心臓のところが重っ苦しくて、食べられないのよ」
「そうか。無理をしちゃ悪いな」
しみじみとして、残っていられるなら、残っていてもらいたかったが、七時ごろ、おだいじにと言って帰って行った。
夜になると、対岸の草地でジャンボリーがはじまった。