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しばいきょうぼうけん
芝居狂冒険
夢野 久作
Read 芝居狂冒険 (しばいきょうぼうけん) by 夢野 久作 (ゆめのきゅうさく) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 10,334 characters · 21 screens
芝居狂冒険
夢野久作
「末期(いまわ)の際(きわ)にタッタ一言……タタタ、タッタ一言……コレエ……」
万平は板を並べ換える片手間に、奇妙な声を出して頭を振り立てた。洗い晒(ざら)しの印袢纏(しるしばんてん)に縄の帯。豆絞りの向う鉢巻のうしろ姿は打って付けの生粋(いなせ)な哥兄(あにい)に見えるが、こっちを向くと間伸(まの)びな馬面(うまづら)が真黒に日に焼けた、見るからの好人物。二十七八に見えるが、物腰は未だ若いらしい。材木屋※(やまかわ)の若い者で、蔭日陽(かげひなた)なく働く好人物(おひとよし)であるがタッタ一つの病気は芝居狂(きちがい)で、しかも女形(おんながた)を以(もっ)て自任しているのが、玉に疵(きず)と云おうか、疵に玉とでも云うのか。皆から冷かされるのを真(ま)に受けてイヨイヨ芝居熱を上げるという超特級の難物である。きょうも仕事がないままに、材木置場を片付けながら、そこいらの安芝居の科白(せりふ)を一生懸命に復習しているのだ。
震災前の飯田町駅附近は一面の材木置場になっていた。杉丸太、竹束、樅板(もみいた)なぞが、次から次へ涯(は)てしなく並んで、八幡(やはた)の籔(やぶ)みたように、一旦、迷い込んだら出口がナカナカわからない。