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しばいきょうぼうけん

芝居狂冒険

夢野 久作

Read 芝居狂冒険 (しばいきょうぼうけん) by 夢野 久作 (ゆめのきゅうさく) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 10,334 characters · 21 screens

Aozora Bunko

白い歯を出してニンガリと笑ったが、それは如何にも色魔らしい物凄い笑顔であった。そのまま、細いステッキを振り振り俎橋(まないたばし)の方へ抜けて行った。

万平は材木の隙間から飛退(とびの)いた。その隙間をジイッと睨んで腕を組んだ。芝居の事も何も忘れたらしく真青になって考え込んでいたが、そのまま鉢巻を解いて眉深(まぶか)く頬冠(ほおかむり)をした。材木の間を右に左に抜けて飯田町の裏通りへ出た。すこし芝居がかりの腰付でソオッと左右を見まわした。

往来は日が暮れかかっていた。はるか向うの飯田町の機関庫の裏道を、今の桃割の娘が急いで行く。

万平は大急ぎでアトを追(おっ)かけた。近くなると見え隠れに随(つ)いて行った。

娘はガードを潜って、水道橋を渡って、築地八幡の近くの只有(とあ)る横露路を這入(はい)った。万平も続いて曲り込んだ。

桃割娘のクニちゃんは、横露路の突当りに在る、暗い小格子を開けて中に這入った。小格子の前には「質屋」と書いた古ぼけた看板と、丸柿(まるがき)庄六と書いた新しい標札が掛かっていた。

万平はその前に突立って、どうしていいかわからないらしく、腕を組んだままキョロキョロしていた。