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おちばいき
落ち梅記
山本 周五郎
Read 落ち梅記 (おちばいき) by 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 30,748 characters · 61 screens
半三郎はぐらぐらと頭を揺りつづけていた。蒼白くひきつっている頬、歯の見える口、そして双の眼からはしきりに涙があふれ出た。――金之助は立って衣紋を直し、刀を取上げて振返った。半三郎は毀れた木偶のように、身を投げだしたまま動くけはいもなかった。
その月の下旬に、金之助は江戸の中屋敷で康継と会い、持って来た包の書類を差出した。康継はひじょうな悦びで、これでもう事は成ったと云った。そして、国許における裁決には自分も出るが、裁きの責任者として誰かひとり選びたい、自分の側近からでなく、この問題に関係のない人間を選んで公平な裁きをさせたいが、誰か思い当る者はないかと問われた。
金之助はそのとき即座に半三郎の名を挙げた。
「彼なれば必ずお役に立つと存じます」
「――半三郎」康継はなにか思いだそうとするように眼を細めた、「――それはそのほうといっしょにおれの相手に出た、あの半三郎か」
「私には他に思い当る者はございません、繰り返して申上げますが彼はお役に立ちます、誰よりもみごとにやり遂げると存じます」
康継は思いをひそめるように、やや長く沈黙した後、つくづくと金之助を見おろしながら云った。