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ふとん
蒲団
田山 花袋
Read 蒲団 (ふとん) by 田山 花袋 (たやまかたい) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 44,870 characters · 90 screens
たようなものかも知れない。一歩を譲って女は自分を愛して恋していたとしても、自分は師、かの女は門弟、自分は妻あり子ある身、かの女は妙齢の美しい花、そこに互に意識の加わるのを如何ともすることは出来まい。いや、更に一歩を進めて、あの熱烈なる一封の手紙、陰に陽にその胸の悶を訴えて、丁度自然の力がこの身を圧迫するかのように、最後の情を伝えて来た時、その謎をこの身が解いて遣らなかった。女性のつつましやかな性として、その上に猶露わに迫って来ることがどうして出来よう。そういう心理からかの女は失望して、今回のような事を起したのかも知れぬ。
「とにかく時機は過ぎ去った。かの女は既に他人の所有だ!」
歩きながら渠はこう絶叫して頭髪をむしった。
縞セルの背広に、麦稈帽、藤蔓の杖をついて、やや前のめりにだらだらと坂を下りて行く。時は九月の中旬、残暑はまだ堪え難く暑いが、空には既に清涼の秋気が充ち渡って、深い碧の色が際立って人の感情を動かした。肴屋、酒屋、雑貨店、その向うに寺の門やら裏店の長屋やらが連って、久堅町の低い地には数多の工場の煙筒が黒い煙を漲らしていた。
その数多い工場の一つ、西洋風の二階の一室、それが渠の毎日正午から通う処で、十畳敷ほどの広さの室の中央には、大きい一脚の卓が据えてあって、傍に高い西洋風の本箱、この中には総て