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ぐびじんそう
虞美人草
Read 虞美人草 (ぐびじんそう) by Natsume Sōseki (夏目 漱石) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 198,559 characters · 401 screens
薄くなる帯のなかに濃い筋がゆるやかに流れて、しまいには広い幅も、帯も、濃い筋も行方知れずになる。時に燃え尽した灰がぱたりと、棒のまま倒れる。
違棚の高岡塗は沈んだ小豆色に古木の幹を青く盛り上げて、寒紅梅の数点を螺鈿擬に錬り出した。裏は黒地に鶯が一羽飛んでいる。並ぶ蘆雁の高蒔絵の中には昨日まで、深き光を暗き底に放つ柘榴珠が収めてあった。両蓋に隙間なく七子を盛る金側時計が収めてあった。高蒔絵の上には一巻の書物が載せてある。四隅を金に立ち切った箔の小口だけが鮮かに見える。間から紫の栞の房が長く垂れている。栞を差し込んだ頁の上から七行目に「埃及の御代しろし召す人の最後ぞ、かくありてこそ」の一句がある。色鉛筆で細い筋を入れてある。
すべてが美くしい。美くしいもののなかに横わる人の顔も美くしい。驕る眼は長えに閉じた。驕る眼を眠った藤尾の眉は、額は、黒髪は、天女のごとく美くしい。
「御線香が切れやしないかしら」と母は次の間から立ちかかる。
「今上げて来ました」と欽吾が云う。膝を正しく組み合わして、手を拱いている。
「一さんも上げてやって下さい」
「私も今上げて来た」
線香の香は藤尾の部屋から、思い出したように吹いてくる。